ama-oto
 見たくもない、二人で歩く姿を、ほどなくして学内で見かけることになった。あの日見た、ゆかりと一緒にいた、少しなよなよした印象のある男。

 見たくもない、知りたくもないことが、何度も目の前を通り過ぎて行った。

 考えたくもないことが頭をかすめた。一人で静かに泣いて、裏切られているのを見てみないフリしてまでつくすような男なのか。

 少しでも、離れさせて、冷静にさせる隙はないのだろうか。あれだけ頭の回転が早くて、議論の行方を一歩も二歩も先回り出来るような人間なのだから。

 けれど、ふとよぎる、忘れたくても忘れられない痛みがある。思いがすれ違い、離れて行く痛みを、他人より少しは知っている。誰が何を言おうとも、好きだという気持ちがゆるがない、そういう恋だってある。それぐらい知っている。

 一体、何がしたいのだろう。

 守りたい。俺なら泣かせない。

 けれども、一番キラキラした顔を見せるのは、俺ではなく、あの男に対してだけだ。

 俺は一体、何がしたいのだろう。
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