ama-oto
 清人を初めてみたとき、私の心の中に一陣のつむじ風が通り抜けた。よく分からないのだけれども、視線がぶつかった時、そっと守ってあげたい気持ちになった。どことなく寄る辺のない、小さな子犬のような目をしていた。

犬じゃないし、大学にまで進学しているのだから、それなりの男性ではあったのだけれども、どこか弱々しくて、妙な母性本能をくすぐられたのだ。

 惚れた弱み。よく分からない、母性本能の湧出。私の中にあったのは最初からこの2つだけだったのかもしれない。恋愛感情を、ずいぶんと昔に放り投げてしまったがために、目測を誤っていたのかもしれない。

ふと気付いた。そんなこと、今考えている場合だろうか。
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