ama-oto
 あの子は一体、誰を待っていたのだろうか。一体誰と待ち合わせをしていたんだろうか。私たちの後ろには、もしかしたら……

 ぐるぐると薄暗い色合いのマーブル模様が、延々と頭の中で渦巻く私の腕を引っ張り、福間くんは雨の街をまっすぐに進んだ。

いったいどれぐらい歩いただろうか。

そんなに遠くまで来ていないはずなのに、30分以上歩いたような感覚に陥っていた。福間くんは駅の反対側の公園で、私の腕を離した。傘からはみ出ていたお互いの腕が、雨でぬれていた。

色の変わった福間くんの袖を見ながら、なぜか申し訳ない気持ちが湧きあがってきた。

 「耐えられないんだ。」

 背を向けたまま、福間くんが言葉を発した。冷静なのにどこか熱を帯びた、怒りとはまた違う、複雑な感情の声を初めて聞いた。

 「そういうふうに、あいつに本心隠すところ。」

 言っている言葉の意味がよく分からなかった。けれども、私は返す言葉が出なかった。

 「俺、見たんだよ。」

 福間くんの緑色の傘をじっと見つめながら、私は次の言葉を必死に言葉を探した。

 「親水公園の、銀杏の木。」

 そう言うと、福間くんはゆっくりと振り返り、いつものまっすぐな視線で私を見た。喉に綿がつまったかのようで、私は言葉が出なかった。

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