恐怖短編集
「車内の見回りを、強化してくれたよ」


無理矢理笑みを作り、声を絞り出す。


嘘ではない。本当に、ラッシュ時の車両を頻繁に見回ってくれるようになり、私を見かけると笑顔で会釈をしてくれたりしている。


「それでも、つかまらないんだぁ」


残念そうに天井を仰いで言い、


「相当なやり手だね」


と、付け加えた。


「そうだね」


私の声は風の音で消えるほどに小さくなる。


おかしいよね?


見回りを強化してくれたんだよ?


私は毎日七時十五分から七時四十五分まで、ずっとチカンにあってるんだよ?


毎日毎日、見ているはずなんだ。


私がチカンに合っているその瞬間を、見ているはずなんだ……。
< 8 / 349 >

この作品をシェア

pagetop