*ミーくんの好きなひと*


いたずらっぽく笑う彼は、はたから見たらすごく無邪気で、脅しをかけてるようには見えない。
 

ただの純朴青年っていうイメージだったけど、森川って、こういう人だったの?



「い、行こ」 
 

女たちが焦ったように駆け出していくと、その場に私と彼だけが残された。
 

コンクリートの壁にもたれてほうっと息を吐く。
 

制服も靴も土まみれだ。



「……最悪」

 

つぶやいた瞬間、
 
傍らに飛び降りた森川が、地面を転がった。 


「痛ってぇ」
 

着地に失敗したらしい。
 

意外とまぬけだ。
 

うずくまる彼を無視してシャツのボタンを留め、立ち上がろうとしたけど無理だった。
 
思いのほかダメージを受けてたみたいだ。
 

……足が震えてる。
 

目の前で森川が気まずそうに立ち上がると、背を向けたまま声をこぼした。



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