*ミーくんの好きなひと*


戻ってきた森川は、濡らしたスポーツタオルを手に持っていた。
 
砂や土にまみれた私の足を丁寧に拭いて、汚れを取り払う。
 
はじめは拒んだけれど、強引に足を掴まれておとなしく従った。


「……」 
 

お互い何も喋らず、しんとした空気が気恥ずかしい。
 
そう思ってるのは私だけかもしれないけれど。
 

怪我に慣れてるのか、森川は淡々と手を動かしてる。


「これでよし。あとは……」
 

鼻歌でも歌うような調子で、ポケットから正方形の絆創膏を取り出した。
 
大柄な体躯にはどこか不釣合いなそれを見て、疑問がこぼれる。


「……なんでそんなの持ってんの」
 

私の言葉に、森川は照れくさそうに答えた。


「俺、しょっちゅう怪我するからさ。いくつか常備してんの」
 

ださ。
 

とは、さすがに言えない。


「実はレギュラー外されたのも足を捻ったのが原因でさ」
 

そう言って、自分の足をたたいてみせた。


「寝ぼけて階段から落ちて」

「……馬鹿じゃないの」
 

つい口にしてしまうと、彼は一度目を開いてから優しげに笑った。




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