*ミーくんの好きなひと*



うそ、私が捕まってることに気づいてないの? 
 

スーツ男の手を振り解いて、動きづらい人ごみの中を懸命に進んだ。



「ミーくん!」
 

追いついて彼の手を掴むと、端正な顔が振り向く。
何も感じ取れない、まっさらな表情で。


「ん? なに?」
 

なにって……。



「あたし、今……」
 


真っ黒な瞳は、私を見てるのに、どこか虚ろだった。



「……なんでもない」
 

淀んだ感情が膨らんできて、言いたい言葉を全部呑み込む。


ミーくんの手に指を絡ませると、優しく包み返してくれた。
 
微かなぬくもりにしがみついて、波立つ心を懸命に落ち着かせる。
 


あの写真を見てからミーくんの様子がおかしい、なんて、きっと気のせい。

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