暴露 (秘密を知ってしまった・・・)

5

「おはよう、草野さん」と声をかけてきたのは、社内でも人気の坂本さんだ。いつも爽やかな笑顔で相手を魅了し、立ち居振る舞いがさまになっている。
 私がいる総務課のフロアーには、ほかに経理課、人事課とが同居して総務部となっているが、彼は別フロアーの営業課に所属している。私がいるフロアーには女性が私を含めて6人いるが、そのうちの4人は彼のとりこだ。その4人のなかには、「おつぼね」先輩の松村さんも含まれている。とりこになっていない二人のうち一人は、50歳を超えた人で幸せな家庭を持っているから対象外かな。もう一人はこの私だ。
 私はイケメンが苦手だ。学生のときからそうだ。同級生が騒いでいるのを横目に見て、いつも不思議に思っていた。いつも何か飾っているようで、本来の姿が見えなくて恐い気がするのだ。

 その坂本さん、爽やかな柑橘系の香水を漂わせて爽やかな笑顔で私に近づいてくる。
 (うわっ、きた~)やっぱり苦手だ。
 私の会社は、大手生命保険会社が所有するビルの一フロアーを間借りしているため、エレベーターを必ず使わないといけない。そのエレベーターを待っている間に、運悪くつかまったのだ。
 「仕事には、慣れたかい?」と、キリッと声をかけてくる。
 「え、ええ、少しは慣れました」と、タジタジになって答える。
 「そう、よかったね」キリッ。
 「せ、先輩が優しく指導してくれますので」とタジタジッ。
 「先輩というと?」キリッ。
 「松村さんです」タジタジ。
 「ああ、彼女ね。ハハハ」キリッ。
 エレベーターを待つ別会社の出勤者も多くなってきた。
 「彼女からいじめられてない?」キリッ。
 「と、とんでもないです」タジタジ。
 しかし、いじめられてても、こんな公衆の面前では言えるわけがない。
 「そっかー。がんばってね」キリッ。
 エレベーターがやってきた。すでにエレベーターを待つ出勤者でごったがえしていたので、エレベーターに乗り込んでまでは会話ができない。エレベーターから目的の階に降りると、キリッと「じゃねー」と言って自分が所属する営業課のある部屋に急いで歩いていった。
 解放されてほっとしたが、それにしても「おつぼね」さんの名前を出したときの反応が気になる。「ハハハ」と笑っていたが、あれはどういう意味だったのだろう。私は先輩を宣伝する援護射撃のつもりで、先輩の名前をあえて出したのだ。
 あの「おつぼねさん」発言のことを知っているのかな?
 
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