朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~


馬鹿じゃないだろうか。
本名も訊かなかった。

あのギタリストは、結局誰だったんだろう。


泣きはしない。

泣きはしないけど、泣きたい。なんでだかは、解らないけど。


そんな後ろ向きな思いは、シャワーを終えて、部屋に戻った瞬間に、霧散した。




「…わあ…不法侵入」

「…黙れ馬鹿」



不機嫌そうな目で、私のベッドに腰掛け、じろりと見る、隣の奴。

街中にいると、この真っ赤な髪が、面白いくらいに目立つ。


ジャラジャラと、耳元でうるさいんじゃないかとさえ思わせる、ピアス。

眉にも、唇にも、ピアス。
トライバルの蝶のタトゥー。




「…蜜…顔色悪いな」

「…大丈夫だよ。お腹空いただけ」

「また食ってないのか!」

「レモン味のシャーベット食べたもん」


「……この寒いのに………待ってろ馬鹿」




哲は、隣の部屋に住むひと。

私の職場の先輩で、私に仕事と部屋とを世話してくれたひと。



多分、年は結構上なんじゃないかな。



< 10 / 354 >

この作品をシェア

pagetop