朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~
馬鹿じゃないだろうか。
本名も訊かなかった。
あのギタリストは、結局誰だったんだろう。
泣きはしない。
泣きはしないけど、泣きたい。なんでだかは、解らないけど。
そんな後ろ向きな思いは、シャワーを終えて、部屋に戻った瞬間に、霧散した。
「…わあ…不法侵入」
「…黙れ馬鹿」
不機嫌そうな目で、私のベッドに腰掛け、じろりと見る、隣の奴。
街中にいると、この真っ赤な髪が、面白いくらいに目立つ。
ジャラジャラと、耳元でうるさいんじゃないかとさえ思わせる、ピアス。
眉にも、唇にも、ピアス。
トライバルの蝶のタトゥー。
「…蜜…顔色悪いな」
「…大丈夫だよ。お腹空いただけ」
「また食ってないのか!」
「レモン味のシャーベット食べたもん」
「……この寒いのに………待ってろ馬鹿」
哲は、隣の部屋に住むひと。
私の職場の先輩で、私に仕事と部屋とを世話してくれたひと。
多分、年は結構上なんじゃないかな。