朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~
「とりあえず…これしかない。食っとけ」
慌ただしく部屋から出て行った哲が、ノックもなく戻って来た時には、私の後ろ向きな思考も、戻ってくる気配はなかった。
「メシくらいまともに食えよ…ますます貧相になるぞ」
手渡された、オランジェット。
オレンジの皮のピールに、チョコレートのかかった、哲お気に入りの“つまみ”。
「……貧、相…………?」
「……いいから食え」
馬鹿だ貧相だと…この男はどうしてこう、質の悪い口を利くのだろう。
確かに胸はないんだけど。
…いや、多分、ないとは言えないはず。
寄せてあげれば似非谷間もできるんだから。
……きっと哲は巨乳が好きに違いない!
私は受け取った、缶に入ったオレンジの皮をつまみ上げる。
グラニュー糖が、キラキラと。
結晶のように、オレンジ色を透かせて覆っている。
半分を更にチョコレートで覆われたそれは、小さくかじると、いっぱいの柑橘の香りが、口の中に満たされた。
「…哲、今度これいっぱい買って」
「食ったら、寝ろ」
「無視ですか」
「…高ぇんだよ」
ようやく、哲の唇の端が上がる。
釣られて笑った私の頭を撫でて、おやすみ、と。
哲は、私の部屋のドアを出て、外から鍵を、かけた。