朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~


「巻」の字が、ふっと見えなくなった。

一瞬見えたのは、哲の、指。


私の手から、サラダ巻きを取り上げた哲が、自分の分を口に咥えたまま、無造作にセロファンを剥がす。



「あ…ごめん、自分で出来る」


そうは言ったものの、くるくると、あっという間に海苔に巻かれたそれは、私の手にすぐに戻って来た。

無言のままなのに、食え、ときつく言われた気がして、私は慌てる。



私がこんなだから。

いや、別にコンビニの海苔巻きくらい作れるけど。



私なんかが傍にいたら、とまで卑下する気は、毛頭ない。

だけど確実に。

哲の人生の妨げにはなっていると思うんだ。



私は女で。

私にとって哲が「哲」であるように、哲にとって私は「蜜」なはずだけど。


雪音ちゃんにとっては、私は「女」に該当するはずだ。



ああ。
早く吹っ切れないと。


紹介するって決めたの、私なんだから。



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