朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~
私の目は、思い切り泳いだはずだ。
哲は不自然に黙り込むと、怪我のない方の手で、私の髪をかき混ぜた。
「…チョコレート、買ってやるから」
だから、笑え。
「…二個」
「……ああ、二個な」
何ひとつ隠し事なんか、できた試しがない。
哲は、私のことで解らないことなんか、きっと無いんだ。
もしかしたら、私が哲に恋したかも知れないことだって、もうすぐバレるに違いなくて。
…そんなの、嫌。
バレる前に、何とかしないと。
哲を困らせる前に。
「…冷蔵庫のイクラ、持ってきた」
「マジで?」
髪をかき混ぜる力が、強くなった。
「気がきくじゃん」
偉い偉い、と。
嬉しそうに笑う顔は。
少し、わざとらしくて。
ああ、聞かないでいてくれるんだ、と。
私もそのまま、無意味な笑みを、浮かべた。