朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~
「俺、明日、帰るから」
「え?」
明日、どこに?
明日病院に帰る?
いやいや、駄目だろう。
明日、退院してくる?
…え、早くない?
「午前中に帰るから」
哲の右手の指が、私のスピーカーのついたウォークマンに伸びる。
慣れたように、ちょこちょこ操作すると、ポケットから何故か靴下を引っ張り出した。
「蜜。片手すげー不便」
悪ぃけど履かして。
もう面倒で面倒で。と。
寒いわ痛ぇわ面倒だわ。と。
哲が困ったように笑うから。
唇のピアスが、キラキラと。
流れ始めたChicago。
happy Man。
甘い、ジャズメロディー。
そういえば哲、素足だねって。
冷たかったでしょう。
素足で靴履いちゃ駄目じゃん、って。
そう、笑って。
心配してくれて、ありがとね。
あからさまにイヤがったら…遼に悪い気がしたんだ。
減るもんじゃないし、って思ったんだ。
まさか、そのまま出しちゃうなんて、思わなかっ…たから…。
靴下を。
爪に引っかけないように。
哲の目を見ないまま、そっと。
私“遼”無くしちゃったよ…
囁くようにそう、吐き出した。
哲が。
ひどく真面目な顔で、じっと私を見つめていることに、気付かないまま。