朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~



翌朝、へんな寝方をしたわりにはすっきりと目が覚めた。

寝不足ではないのだから、当たり前かも知れない。


ベランダで待つヒヨドリに、リンゴを出してやりながら。

哲が居なくても起きられたじゃん私?と、少し嬉しかった。



リンゴの赤い色は、哲の髪を思い出させるけど、リンゴの香りは、遼を掠める。


「…もういい加減、立ち直らないとな」


声に出せば、思考の中の挫けた自分が、すっくと頭を上げたかのように、引き締まるのがわかった。



楽団を、辞める。
トランペットは、吹かない。

遼には会うことも、したくはないけれど。


ちゃんと話すためにも、会わなければ。

前向きも何も、こんなに拒絶感が湧いてしまった。


ちゃんと、話さないと。

私が、誤魔化し続けた、遼との距離。


この前、このリンゴを買った日に。

その前日の、練習帰りに。



ちゃんと話せば良かったんだ。



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