朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~
「………」
あ…
哲が、ちょっと怒った…。
きゅ、と毛穴が縮まったような感覚。
私は、哲が怒るのは“好きじゃない”程度だけれども、本気で怒るのは、怖い。
「来週!来週は、行くから!」
「…………」
やだ。
ねぇ、怒らないで。
だって、私が哲を好きだなんて、雪音ちゃんに思われたら…
雪音ちゃんは絶対に哲に近づかなくなっちゃう。
雪音ちゃんは優しいから、哲を好きになろうと、してくれなくなっちゃう。
そうしたら。
そうしたら哲、悲しいでしょ?
私は息を整えながら、一歩、後ずさった。
「………風呂。入る」
強く短くため息を吐くのは、哲が何かを諦めた時。
包帯の巻かれた左手をひらひらと振って、ラップかなんか巻いてよ、濡れないように、と。
あれから風呂入ってないから鉄粉だらけのままなんだ、と。
「錆びてきた気がする」
何事もなかったかのように笑って、1度だけ私を手招いた哲の目が、それでも僅かに機嫌を損ねた色を浮かべているのを、私は。
きっと不安そうに、見上げてしまったと、思う。