朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~
「りょ、う。待って」
それでも私は、怖い。
伸ばされた腕に、首をすくめた事を無視した遼が、怖い。
狭い玄関口で、ゆるく抱かれて。
真っ白に緊張した思考が、ふと投げ出された。
「俺を好きに、なってくれないかな」
「………好きに?」
好き、だったよ?
トロンボーンを構える遼は、綺麗だもん。
一緒に曲を練り上げていくのは、好きだった。
綺麗な髪に憧れて。
優しい仕草に癒されて。
好きだった。
ちゃんと、好きだったんだよ。
「……蜜、うんって言って?」
緩かった腕に、力がこもる。
いっぱいの遼の体温に、私の思考は真っ白く曇る。
このまま、うんって言ったら、私、どうなるの?
遼は優しいから、きっと大事にしてくれる。
愛せなくても、愛してくれる?
そうしたら。
そうしたら。
私、哲と離れても、寂しくない、の?