朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~
見上げた遼の目に一瞬、浮かんだ、苛立ち。
私を抱く腕に、力がこもる。
どうして?
つい先週までは、そんな顔しなかった。
私も遼も、笑えてた。
「…じゃあ……どうして、この前、させた?同情?」
耳の奥で鳴り続ける、ピアノ線を叩く音が。
「誰とでも、するんだ?」
警鐘のように、鳴り響き。
「……“哲くん”にも…させてんの?」
……不協和音にまで乱れきって、ぷつりと、途切れた。
遼の、怒りを押し殺したような震える声に。
“哲”という音に。
私は、全ての均衡を崩して、遼の腕から逃れようと、暴れた。
「いやっ!やだっ!」
やめて。やめて!
なんでそんな事言うの!!
玄関先で、ちょっとした揉み合いのようにもつれた、私と、遼。
崩れるように体勢を崩したのは、決して押し倒された訳ではないのだけれど。
結果的に、そんな体勢になってしまった事に、私は。
人生で初めてなんじゃないかってくらい女の子らしい悲鳴を、あげた。