朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~
「…馬鹿が極まったか……」
2つに切ったリンゴ。
渡されたそのままに両手に持っていた私から、ひとつ取り上げた哲は。
そんな事を呟くと、なんの答えも否定も肯定もくれないまま、ベランダの窓を、開けた。
「蜜、ほら早く」
赤い髪が、振り返る。
包帯の手で、私を手招く。
いつもと変わらない、哲の。
笑うでもないような、ささやかな笑顔。
「寒いだろ!早く来いって」
北風が、少し哲の髪を巻き上げた。
いつものカーキ色のパーカーは、そろそろ洗濯したい。
慌ててベランダに出た私は、そこから見える工場の、閉まったシャッターの前に、箱がおいてあるのを見つけた哲の隣に、立った。
「蜜、あれ」
「…仕事来てるね」
「こっそり置いていく仕事にロクなモンねぇよな……」
苦々しく笑う哲の、唇のピアス。
なんにも変わらない?
会話には、あまり変化はないような気がして、私はいつの間にか置かれた仕事よりも、傍に立つ哲の、唇のピアスに、指を伸ばした。