朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~
「…なんでそんなに不安?」
おとなしく私に唇をなぞられる哲は、私を覗き込む。
工場の屋根の上で、一旦待避したヒヨドリが、早くどけとばかりに、甲高い鳴き声を上げる。
「わかんない、けど……私…」
哲は“男”で。
私は“女”。
その関係の、脆さだけは。
知っている。
時には友達の話から。
私が花屋を辞めた原因のひととの、事、から。
「……哲、実は籍の入ってる奥さん、いたりしない?」
「………」
「子供とか」
「………」
「別れ話の済んでいない彼女とか」
喋りながら私は、自分の言っている事に、勝手に傷ついて。
勝手に緊張して。
ああ、本当に私、面倒な女だ。
「…どれもいないよ」
唇をなぞる私の指。
その手を握って、指を口に含んだ哲は、呆れたような顔をするも、ひどく真面目に、そう。
答えた。