朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~
「さあ、高崎は打ちのめしたし、蜜サンは幸せになるし」
音出し、始めましょうか。
ニコリと髭を動かした団長は、ひとりさっぱりしたように、私と遼の肩を叩いた。
そんなに、割り切れるものなのかは、解らない。
解らないけど。
黒いケースを開けて、金色の楽器を見た時に。
遼のトロンボーン。
私のトランペット。
マウスピースの大きさは、やっぱり違っていて。
「蜜」
遼の差し出した、私のマウスピース。
「ごめん、ね、蜜」
「………」
頭の中で、ラフマニノフが流れて。
金管八重奏の、譜面が浮かぶ。
遼の手のひらに乗った、私のマウスピースを、そっと受け取った。
「……音、出るかなあ」
久しぶりに見上げた遼の目は、とても、穏やかで。
以前と同じ訳では無いけれど、同じである必要は無いんだ、と。
そう、思った。