朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~
哲はスタジオの外に、立っていた。
赤い髪を、結ばずに。
派手な容姿からは、想像しにくいくらいに優しくて。
今買ってきたのか、英語で書かれた雑誌を、めくったところだった。
「哲」
「…蜜」
哲は、哲だ。
私が蜜であるように。
ヘッドホンをしていたから、聞こえないかと思ったけれど。
声をかけた私に視線を上げた哲は、私が嬉しそうに笑っていたことに、きっと安心してくれたと、思う。
私が哲を心配して、哲に安心するのと同じように。
哲も私を、きっと大事に思っていてくれる。
「なに聴いてるの?」
「Black Sabbath」
「あぁ、そういえばトニー·アイオミーも、指無くしてたっけ…」
「指無くしたギタリストだって、音楽はやめたりしないだろ?」
だから俺も蜜も。
できるうちは、満喫しないとな。
そう言って、私の手を取った哲は。
腹減ったな、と。
私の額に、キスを。
した。