朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~
「蜜…は……」
不意にひそめられた声に、僅かに不穏な色を感じて、私は携帯に付いた2つの鍵を握り締めた。
「……好きな奴、いないの?」
…ああ。
やっぱり…それ?
今、そうなんじゃないかと…思ったんだ。
「…いない、んじゃなくて、みんな好きなだけ。遼も、団長も、雪音ちゃんも、…哲も」
少し、締め付けられるような不安が、私の声をも潜めさせる。
嫌なんだ。
誰が誰を好きだとか。
せっかく楽しいのに、壊れる気がして。
ヤメてね、私、遼を好きでいたいから。
楽しく、曲を奏でて行きたいから。
壊さないで。
気のせいだから。
「遼、明日、リンゴ売ってるとこ行きたい。紅玉があったら、またみんなにアップルパイ作るから」
ね?
全て誤魔化すように、笑顔を向ければ、遼はやっぱり、困ったように笑う。
大丈夫。
きっとすぐ忘れる。
気のせいなんだよ、遼。
恋、なんて、気の迷い。