朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~
お湯を、沸かす音。
ステンレスそのままのケトルが熱くなって、水の表面が弾けるように、鳴る。
「明日、遼とリンゴ買いに行く事になったの。さっき」
私の食器棚。
無垢の白木で出来た、小さい棚。
食器だけしか入って無いわけではなく、細かな雑貨なんかも、一緒にしまってある。
弾けもしないギターのピックとか、吹けもしないクラリネットのリードとか。
その棚を、まるで自分の物のように開けて哲が出してきたマグカップ2つ。
1人分の挽いたコーヒー豆を、それぞれにセットした。
ピスタチオの乗ったチョコレートケーキと、イクラのおにぎり。
それと、コーヒー。
「あと、映画、14日にしたけど…大丈夫?行ける?」
「誰が一緒って言ったっけ?」
「雪音ちゃん」
ああ、あの可愛い子かぁ、と。
立ち上がって、ケトルを熱くする火を止めた哲は、14日で問題ないけど、2人で行けば良いんじゃないの? と。
苦笑に似た顔で、コーヒー豆の上から、立ったまま、お湯を注いだ。