朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~


「リンゴは買えたのか?」


ようやく哲の膝から降りた私を、真ちゃんが手を引いて立たせてくれる。


真ちゃんの手は、いつも熱い。

遊びに行くときの、私や哲のように、シルバーのリングをいくつも付けていて、ギタリスト特有なのか、少し平たい指先をしている。



「うん、紅玉30個買えた」

あと、鳥用の甘いの10個。


「鳥?」

真ちゃんは、すぐに手を離すと、拾い上げたレスポールのケースを開けながら、中身を取り出した。

…壊れてないよね…?



「蜜が餌付けてんだよ、ベランダで」


レスポールの弦の張りを確かめる真ちゃんの手元を見つめたまま黙っていた私の代わりに、哲が答える。



「鳥ってミカン食う?」

「うん、半分に切ると食べに来るよ」


どこも異常なかったのか、おもむろにレスポールを抱えて、弦をはじいた真ちゃんが、ふと顔を上げた。



< 85 / 354 >

この作品をシェア

pagetop