朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~


なんとなしに、二年前の哲を思い出して、理不尽な腹立たしさに襲われていたら。

ライブハウスの従業員に、声を掛けられた。

藁のような、まっすぐな金髪をひとつで結んだ、お兄ちゃん。


あ、別に血が繋がってるとかじゃなく、単に、年上のひと。



「蜜ちゃん、哲さん歌うの久しぶりだね」

「うん、でも今日歌うの、忘れてたんだよ」



名前、なんだっけ。
工藤くんだったかな?

…今更間違えたら嫌だから、呼ばないでおこう…。



「なに飲む?」

「ワンドリンク付いてたっけ?私、チケットないから」


「あ、哲さんたちと一緒に来たんだっけね。いいよ、いつものでいい?」

「うん」



音が大きいから、顔を寄せて話すけれど、私の視線は、哲を追う。

緑色の瓶と、グラスの置かれた小さな振動が、カウンターの薄い板を通して、私の左腕に伝わった。



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