チェーン・クラッシャー(運命破綻者)
そして、名刺を手に取った輝を見下ろしながら、言い放った。

「赤の他人からの無償の行為よ」

それから、テーブルの上の伝票を引っ掴むと、輝に背を向けて歩き出した。

「いいケツ」

輝は、京の後ろ姿を見送りながら、口笛を吹いた。


「亜依子の野郎!あんな変なやつを紹介しやがって!」

会計を済まし、店を出た京の脳裏に、笑顔で話す亜依子の顔がよみがえった。

「やれやれ」

輝は頭をかくと、まだ半分程残っているアイスコーヒーのグラスを数秒見つめた後、座っている椅子の後ろにある鉄の柵に手を伸ばした。

「仕方ないか」

そして、そのまま…床を蹴ると、鉄棒のように、テラスの外に向かってジャンプした。

テラスの外はすぐに歩道で、輝は周囲を気にすることなく、前を歩く京の後ろ姿を見つめながら、歩き出した。

「どう?」

その時、輝の耳につけられたボタンタイプのイヤホンから声がした。

「まだわからん。ただ匂いはしなかった」

「そう…」

イヤホンからの声のトーンが、下がった。

「あの女は、生理ではない!」

輝の目が輝く。

「…」

イヤホンの向こうで、絶句する声の主。

「俺の鼻を、誤魔化すことはできないぜ」

フッと笑う輝の耳に、氷のように冷たい声が飛び込んできた。

「帰ってきたら、その鼻…削いであげるわ」

「!」

今度は、輝が絶句した。

「ま、舞!じ、冗談に決まっているだろ!」

「そういう冗談は嫌いよ」

「舞!」

思わず足を止めた輝の数センチ向こうの地面に、黒焦げの穴が空いた。

「ゲッ!」

輝は上空を見上げた。常人の目では確認できないが…衛星軌道上にそいつはいた。

「ど、どこぞの衛星兵器をハッキングしてんじゃねえよ!死んでたぞ!」

輝の言葉に、舞は舌打ちした。

「死ねばよかったのに…」

「ま、舞さん?」

「反射神経と、悪運だけは無駄に強い」

舞は再び、舌打ちをした。


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