ほどよいあとさき
披露宴で知り合った仁科さんの兄嫁によれば、相模主任と仁科さんにも波乱万丈でドラマティックな展開があったという。
溺愛としか言いようがない甘い関係を育て、そしてこの宴の日を迎えていた。
仁科さんの幸せを願う歩の心配をよそに、相模主任と、あ、この二年で歩も相模主任も「課長」に昇格したんだ。
その相模課長と仁科さんはお互いの気持ちに素直になり、『奇跡』に喜びあい、この先二度と離れることはないんだろう。
「本当、幸せそうだな」
私と歩は、披露宴の幸せな席に呼ばれ、おいしい食事を楽しませてもらっている。
本当にいい時間だな、と笑顔を浮かべながら過ごしていると、隣の席にいる歩がポツリとつぶやいた。
「いつか、ちゃんとオレの父親の話をしないといけないな」
遠目にも幸せに満ち溢れている相模課長と葵さん。
二人を見つめながら呟く歩の声に、弱々しさは感じられなくて、逆に大切な親友に自分の立場をいつかちゃんと話そうと決めた力強さが感じられた。
話すことが、自分の重荷を軽くするための自己満足にならないかと、何度も自問自答を繰り返していた歩だけど。
吹っ切ったような表情には、たとえ仁科課長と葵さんに真実を話したとしても、きっと大丈夫だという自信も感じられる。
「そうだね。話さなきゃね……」
テーブルに置かれた歩の手に、私の手を重ねると、歩はくすりと笑って私の耳元に囁いた。
「その前に、ひと仕事してくるか」
「ひと仕事?」