ほどよいあとさき
歩は、何を言っているのかわからない私に、意味ありげな視線を向けた。
どこか面白がっているような、ふざけているような、そんな視線。
この場に違和感を感じるんだけど。
戸惑う私に構う事なく、歩は小さく肩を揺らしながら離れた席で幸せそうに並んでいる新郎新婦を見つめた。
その横顔からは、何かを企んでいるとわかる口元が露わに見える。
あ、もしかして。
ふと思いついた私は、呆れたように歩を見つめ返した。
そして、
「歩……いくら私たちの披露宴の時にいろいろ言われたといっても……」
重ねていた歩の手を、諭すようにぎゅっと握りしめた。
その途端、会場内に響いた司会者の声。
「それでは、新郎の同期の椎名歩様より、お祝いの言葉をちょうだいしたいと思います」
大きな拍手に包まれる中、苦笑しながら歩は席を立った。
「歩、だめだよ、お手柔らかに、だよ」
焦った私の声に小さく笑った歩は、会場に向かって何度かお辞儀をしたあと、金屏風の前に並んでいる椎名課長と葵さんのもとへ向かった。
その直前、私の背中にそっと指先を這わせながら。
「わかってるよ。……誰よりも相模と葵さんの幸せを喜んでいるのは、俺だからな。
だから、大丈夫だ。本当のことを言うだけだから」