ほどよいあとさき
②
* * *
相模主任の『押し掛け私設秘書』。
それは、想像以上に……楽しいものだった。
正直なところ、入社以来ずっと経理部というスタッフ部門にいた私には『未知の世界』で、何もかもが新鮮でわくわくするものだった。
自分の机周辺に置かれている図面を目にするだけで、これまでの環境とは全く違う時間の流れを感じるし、IR課という株主様への対応をメインにしている課にいたせいか、株価の動きに始まる数字がらみの仕事が多かった私にはわくわくすることばかり。
けれど、私がこうして相模主任のもとに派遣されることは、予め歩によって仕組まれたことだったと、あとから教えられた。
会議室の開錠の仕方なんて知っているとも聞かされて、それはそうだな、と納得。
それに、わざわざパソコンを会議室につなぎたいのなら、部下に任せるだろうし。
結局は、私に当面の間相模主任のもとで『押しかけ私設秘書』をして欲しいと、それを言うためだけに会議室に呼ばれただけだった。
あ、相模主任が出演しているテレビ番組の録画を頼まれていたのは嘘ではなかったけれど。
歩と別れて以来、社内で顔を合わせることはしょっちゅうあっても、二人きりで話す機会なんて滅多になかったせいか、私は緊張とどきどきで倒れそうだった。