ほどよいあとさき
朗らかに笑って私に頷いてくれる部長は、次の株主総会で取締役に就任するんじゃないかと噂されているやり手。
遠目からのイメージでは声がかけづらかったけれど、とても温かい雰囲気の、穏やかな人だ。
気付けば、周囲にいる人たちみんな優しそうで、他部署の私を快く受け入れてくれているのがよくわかる。
相模主任が私を指名してここに呼んでくれたということも影響しているのかもしれないけれど、優しくされればやはり、どこか緊張していた心も次第に落ち着いてくる。
部長の近くに腰をおろすのは気が引けるけれど、今更拒むなんてことできるわけもなく、乾杯のあと、新入社員の挨拶が終わるまではここにいようと、そう思って小さく息を吐いた時。
「で?神田さんは結婚が近いって相模が言ってたけど、いつなんだ?」
「え?結婚?私がですか?」
「ああ、相模が言ってたぞ。神田さんは近々結婚するから部内のオトコから下手に興味を持たれると困るって」
それまで、居心地の悪さに俯きがちだった私の視線は、部長の言葉によって一気に上昇、部長から目をそらすことができない。
近々結婚……?
一体誰の話をしてるんだろう。
私には、今付き合っている恋人すらいないのに、何故結婚?