ほどよいあとさき
聞こえた瞬間、その声が誰のものなのかすぐにわかって、途端に体は固まってしまった。
「神田と同じ、経理部の椎名です。今日はまあ、いろいろな流れでここにいるけど、これからよろしく」
「あ、は、はい。仁科です。よろしくお願いします」
姿勢を正して頭を下げる仁科さんに、歩はくすりと笑った。
そして、それが当然だとでもいうように私の隣に腰を下ろす。
お互いの体温を感じるその近い距離に、ふっと心が揺らいだような気がした。
そっと視線を上げると、私を見つめる歩の視線と絡み、更に心は落ち着かない。
そんな私に口元だけで表情を見せると、歩は仁科さんに向かって声をかけた。
「今年の新入社員はかなり綺麗な女性が多いって噂だったけど、その噂は本当だったんだな」
「え?」
歩のからかうような声に、戸惑う仁科さん。
人見知りなのか、歩に向けた表情は戸惑いしか見えないし、視線を合わせることすら必死だ。
細身の体が更に弱々しく感じる。
歩は私の腰に回した手はそのままに、体をぐっと仁科さんに近づけると、彼女の耳元に囁いた。
「あまりにも可愛くて、配属早々面倒な奴に目をつけられたな」
「目、目を……?」
「ああ。俺がこうして仁科さんとの距離を詰めただけで、睨みつけるオトコがいるぞ。
面白いからもうしばらくこうしてるか?」