ほどよいあとさき
一年ぶりの歩の部屋は、懐かしさを感じるなんてできないほど様変わりしていた。
「え?ここって、歩の部屋……?」
玄関に入っただけで、以前とは全く違う様子に気づき呆然とする。
もともと歩は物に執着するタイプではなく、彼自身の物はそれほど多くはなかった。
私がこの部屋に通っていた一年前は、夏乃さんと付き合っていた頃の名残で、彼女が揃えた物の方が多かった。
確か、玄関の片隅にはアルミで格子状の傘たてが置かれていたと思うけれど、それもなく、スリッパラックすら見当たらない。
「あ、スリッパを履くならここに入ってるから」
玄関で立ち尽くしている私に、シューズボックスの扉を開けた歩が声をかけた。
「俺の靴もそんなにないから、ここに全部収まったうえに、スリッパも収納完了。
おかげで玄関はすっきりしてるだろ?」
「あ、うん……」
歩はシューズボックスの中から一足のスリッパを取り出すと、私が履きやすいように置いてくれた。
目の前に並べられたスリッパは、水色の生地に、白いストライプが鮮やかだ。
これって、私が自分の部屋で使っているものと同じだ。
それに気づいて、はっと視線を上げると、照れたように顔をそらした歩。
私に背を向けて、一人でさっさとリビングへと歩いていく。
「あ、歩、これって、これ。私の部屋のと同じ……」
私は慌ててスリッパに足を通して歩を追いかけた。
リビングのソファに鞄を置き、ネクタイを緩めている歩は、傍らに駆け寄った私にちらりと視線を落とすと、小さく息を吐いた。