ほどよいあとさき


「そうだよ。一花が気に入って使っていたスリッパを探して用意したんだ。別れてすぐに、一花が通っていた雑貨屋に行って、買ったんだよ」

「雑貨屋……?あ、『ひまわり屋』だ……。でも、なんで?前は、真っ白でふわふわなスリッパがあったのに」

「ああ、あったな。だけど、あれは夏乃が用意して勝手にこの部屋に持ち込んだものだし、一花は遠慮がちに使ってただろ?」

「あ……」

決して私を責めるような口調ではないけれど、探るような声にはそれなりの自信も感じられた。

きっと、私がこの家に来るたびに隠していた感情に気づいていたと言いたいのかもしれない。

「一花と別れて、一花がこの家から自分の物を持ち去った後、残されたものと言えば、夏乃が無理矢理持ってきたものばかりだったから。物の大小や、金額にはこだわらず全て処分した」

「す、全て?」

「ああ、全てだ。夏乃が用意した物全て、捨てた」

「うそ」

両手を口元に当てて、歩を見返す私は、今聞かされた言葉が信じられない。

あれだけ何にもこだわらず、夏乃さんと別れた後も彼女がこの家にいたという痕跡を気にしなかったのに。

どうして、全て処分したなんてことを簡単に口にするんだろう。




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