ほどよいあとさき
「平気なわけがないだろ。……だけど、一花と別れることを選んだのはオレ。
一花との未来ではなく、会社の安定を選んだのもオレ。
……一番悪いのは、夏乃じゃない、オレなんだよな」
低く呻くような声が私の体全体に響き渡った。
これまでずっと飄々とした態度で私に接し、本心を掴ませない様子はまるでなくて、自分を責め、悔やむ姿を隠そうともしていない。
私に『別れよう』と言った時ですら、こんなに強く感情を見せなかったのに。
今の歩は、少しの私の変化も見落とさないように、息をひそめるように、そして神経質に私を見つめている。
「なあ、夏乃がしでかそうとしていたバカなことなら、ようやく解決したから。会社はこの先どうにもならない。大丈夫だ」
思いつめたような、くぐもった声が部屋に響いた。
「え……本当?でも」
「一花を苦しめたままで、手放したままで、悪かった……。言い訳ならいくらでもするし、今の俺の気持ちを一日中でも言ってやるから。もう、我慢しなくていい。俺のもとに帰ってきても、会社のことなら大丈夫だ」
まるで呪文のように、私の心をときほぐす言葉が吐息とともに落とされた。
言葉と共に染み渡る歩の切なさや苦しみも一緒に、私の中に入っていく。
「歩……?」