ほどよいあとさき
歩の言葉の意味がよくわからなくて首を傾げた私に、歩は軽い笑顔を作ると。
「それは、追々話すから、とにかく今は一花がこの部屋に、そして俺のもとに取り戻せたことを実感させてくれ」
切羽詰まった表情と、声。
突然のその変化についていけなくて戸惑った私は、その戸惑いすら綺麗に消されるかのような素早い動きの歩に抱きかかえられ、唇に熱を落とされる。
「誰にも、見せてないだろうな」
どこか探るような低い声と、黒い瞳。
歩に横抱きにされたまま連れてこられたのは、久しぶりに入る歩の寝室だった。
歩は、焦っていることを隠そうともしない動きで、私をベッドに放り投げると、そのまま私のブラウスのボタンをはずし始める。
「ちょっ、歩……待って」
「もう、一年待った。これ以上は無理だ。……あー、なんでこんなにボタンが多いんだよ。くそっ」
震える指先では、ボタンをうまく外せないようで、それにいらだった歩は、一気に私の胸元を開いた。
瞬間、いくつかのボタンが部屋に飛び散っていくのを感じたけれど、それに構う間もなく下着も取り去られ、スカートすら破る勢いで脱がされる。
「後で、ゆっくり抱くから、とにかく今は、優しくできない」
ごめん。と心にもなさそうな口調で呟いた歩は、自分が身に着けていたスーツも一気に脱ぎ去り、そして。
「悪い。俺の好きなように抱かせて」
その言葉を言い終わると同時に、私の体を好きに抱いた。
どれほど泣いても、体が跳ねても。
意識を失ってもすぐに呼び戻されて。
愛する人に一年ぶりに抱かれた夜は、生きてきた中で一番苦しくて、そして甘やかなものだった。
「歩、愛してる……」
「ああ、俺も、一花だけだ」
ぐっと体の奥に入ってくる歩の熱に浮かされるように、一晩中、喉が枯れるまで喘がされ、幸せすぎる漆黒の闇を泳いだ。