みどり姫
「さぁ、急いで着替えて!! マヒトが朝の遠乗りに、一緒に来ないかと言うのよ。もし、貴女が起きていたら……という話だったんだけれど、行くわよねぇ? 昨晩、そんな話をしていたのだけれども、貴女、もう眠っていたから」
「苔緑の乗馬服に着替えるわ! 手伝って頂戴!!」
 マーレイが悲鳴を上げる。
「帯とリボンはどうするの? 同じ色で良いの? 『みどり姫』」
 衣装部屋に向かいながら、アナシアが声をかける。
「帯もリボンも、乗馬服とひとまとめにしてあるわ。そのまま持ってきて頂戴」
 きりきりと、マーレイは唇を噛んだ。
 誘いは勿論嬉しいけれども、余りにも突然だ。ひどすぎる。昨夜のうちから知っていたのだったら、乗馬服も何もかもをも、眠る前に準備万端、整えられたのに。
 兄様とご一緒に遠乗りに出かけるなんて、何て久しぶりの出来事だろう! 胸躍る出来事だろう!
 だが、不安もある。
 何故、兄様はわたくしを誘って下さったのかしら? アナが言い出したのかしら? でも、そんな事どうでも良いわ。ううん、やっぱりどうでも良くないけれども、でも。
 それより何より、肝心な事。
 ああ、兄様の目に、今朝のわたくしは美しく見えるかしら?
 『みどり姫』という名に恥ずかしくない程に。
 ああ、どうか兄様の目にみっともなく映りませんように。
 成人の暁にはアザルディーン一の美貌を嘱望されている少女は、ただひたむきに祈る。
 アナシアが乗馬服一式を両手に抱えて持ってきたのと、マーレイが寝間着を足元に脱ぎ捨てたのは、ほぼ同時だった。
< 9 / 18 >

この作品をシェア

pagetop