Reminiscence
旅立ち
フェンは落ち着きなく精霊の森の中をちらちらとみていた。
もう日も傾きかけているというのに、朝方、精霊の森に入ると言った男がまだ帰ってきていなかった。
きっともう帰ったんだ、とフェンはそう思うことにした。
ここが街から一番近い場所でずっとここで帰ってくるのを待っていたとしてもだ。
森からはどこからでも出られる。
もしかしたら入ろうとして、けれどすぐに引き返してとっくに月光草を諦めたのだとフェンは無理やり自分を納得させた。
けれど、どうしても気になって、不安になってしまう。
いつも歌うために森の近くまで怖いのを我慢してきてるというのに、どうしてもうまく声が出なかった。
「もういいや……」
フェンは肩をがっくりとさげてとぼとぼと歩きだした。
フェンの住んでいるのは森のすぐ近くにある村落だ。
そこでは貧しいながらも朗らかで優しい人たちが助け合って暮らしている。
フェンは村が好きだったから、いつも仕事をしている人の邪魔をしないように(そして面倒な仕事を押し付けられないように)森のすぐそばまで毎日来ては大好きな歌の練習をしていた。
まだ日が落ちるには時間があったが、今日はもう歌えないと思って、フェンは帰ることにしたのだった。
フェンがいくらも歩かないうちに、横道から黒ずくめのローブを着た人が通りかかり、フェンと目が合うと、手を掲げてフェンを呼び止めた。
「そこのお嬢さん!」
フェンは足を止め、黒ずくめが駆け寄るのを待った。
黒ずくめは近くで見ると、ずいぶんと疲れた格好をしていて遠くから来たのだとすぐに見当がついた。
「旅人さん?」
フェンが訪ねると黒ずくめはうなずいた。
「君、この近くに住んでるの?」
「近くの村に住んでるよ」
「お、ちょうどいい。しばらく滞在できる村を探してたんだけど案内してくれないか?」
「いいけど……悪い人じゃないよね?」
フェンは本気だったのだが、そのあまりにも直球な物言いに旅人さんは一瞬唖然としたかと思うと楽しそうに笑い出した。
「大丈夫だ!私はもちろん悪人じゃないし、さらに強いから村に悪い奴が襲ってきたら泊めてくれるお礼にいくらでも追い払ってやろうじゃないか」
もう日も傾きかけているというのに、朝方、精霊の森に入ると言った男がまだ帰ってきていなかった。
きっともう帰ったんだ、とフェンはそう思うことにした。
ここが街から一番近い場所でずっとここで帰ってくるのを待っていたとしてもだ。
森からはどこからでも出られる。
もしかしたら入ろうとして、けれどすぐに引き返してとっくに月光草を諦めたのだとフェンは無理やり自分を納得させた。
けれど、どうしても気になって、不安になってしまう。
いつも歌うために森の近くまで怖いのを我慢してきてるというのに、どうしてもうまく声が出なかった。
「もういいや……」
フェンは肩をがっくりとさげてとぼとぼと歩きだした。
フェンの住んでいるのは森のすぐ近くにある村落だ。
そこでは貧しいながらも朗らかで優しい人たちが助け合って暮らしている。
フェンは村が好きだったから、いつも仕事をしている人の邪魔をしないように(そして面倒な仕事を押し付けられないように)森のすぐそばまで毎日来ては大好きな歌の練習をしていた。
まだ日が落ちるには時間があったが、今日はもう歌えないと思って、フェンは帰ることにしたのだった。
フェンがいくらも歩かないうちに、横道から黒ずくめのローブを着た人が通りかかり、フェンと目が合うと、手を掲げてフェンを呼び止めた。
「そこのお嬢さん!」
フェンは足を止め、黒ずくめが駆け寄るのを待った。
黒ずくめは近くで見ると、ずいぶんと疲れた格好をしていて遠くから来たのだとすぐに見当がついた。
「旅人さん?」
フェンが訪ねると黒ずくめはうなずいた。
「君、この近くに住んでるの?」
「近くの村に住んでるよ」
「お、ちょうどいい。しばらく滞在できる村を探してたんだけど案内してくれないか?」
「いいけど……悪い人じゃないよね?」
フェンは本気だったのだが、そのあまりにも直球な物言いに旅人さんは一瞬唖然としたかと思うと楽しそうに笑い出した。
「大丈夫だ!私はもちろん悪人じゃないし、さらに強いから村に悪い奴が襲ってきたら泊めてくれるお礼にいくらでも追い払ってやろうじゃないか」