【完】俺が消えてしまう前に
俺は、
一体この人達の何を見てきたんだ。
『樹?ご飯は持ったの?』
いったい何を。
『樹ー!風呂開いたぞー』
俺がいなかった方が良かった。
そんな風に思う人たちじゃない事くらい分かってただろ。
『愛希の分まで、樹と一緒に生きていきましょう』
『もちろんだ』
なんだ、この記憶は。
こんなの知らない。
『樹にはたくさん辛い過去を負わせてしまったからな。俺達が支えないと』
『そうね。最近樹が私たちを他人だと言うけれど、動じないわ。絶対に』
もしかして、
父さんと母さんの記憶?
俺の知らないところで二人はこんな事を言っていたのか。
『すみません・・・この写真の高校生くらいの男の子見ませんでしたか?』
『名前は木戸樹って言うんです。探しています。本当に何か見ましたらご連絡を・・・!』
こんな父さんと母さんの必死な姿・・・。
見た事ない。
目の前で涙を流す父さんと母さん。
俺はこの瞬間。
自分で自分の命を絶った事に後悔した。
死んでしまった事を悔やんだ。