【完】俺が消えてしまう前に
・・・もしも俺が生きていたなら。
何度そう思っただろう。
でも俺が死んでいなかったら七海には出会えていなかった。
皮肉だな。
幽霊だったからこそ七海を愛せたんだから。
「樹、何も考えないで。雑念は除霊の邪魔」
「・・・」
「樹?」
「ごめん」
「集中して」
体に激痛などはない。
だけど足の先と指の先がほのかに温かくなってきている。
俺は目を少し開けて見てみた。
よく見ると消えかかっている。
「・・・俺は」
二度と七海に触れることなく、この場から消えてしまっても本当にいいのだろうか。
ふいにそんな考えが俺の頭をよぎった。
考えてはいけない。
思いとどまってしまう。
駄目なはずなのに。
俺の想いは止まらない。