【完】俺が消えてしまう前に
愛希はちゃんとそこにいるのに。
愛希の母親はまるでそれが見えていないかのように振る舞う。
「ねぇ、連れてきてくれたのよね」
俺は何も言えなかった。
もちろん七海も。
ただ、何も分かっていない愛希は笑顔で「ままー」と言っている。
「あ!そうだ、少し待ってて」
そう言った後、俺らを残して再びどこかに消えた。
俺と七海は顔を見合わせる。
「・・・嘘だよな」
「嘘って言ってよ樹君」
「いや、俺が言ってほしいよ」
「私だって言ってほしい」
俺らはその後なんの会話をする事も出来なかった。
愛希に声をかける事も出来ない。
数十分しただろうか、
玄関の扉が勢いよく開く音が聞こえた。
「・・・なんだ?」
「分からないよ・・・」
「とりあえず、なんかヤバいよなここ」
「うん」
「だって愛希ここにいるもんな?」
「いる」
そんな話をしているうちに、
俺達の元に汗だくの紳士的な男性がやってきた。