【完】俺が消えてしまう前に
「じゃあ俺が連れてってやるよ」
「ほんとう!?おにいちゃん!」
「お兄ちゃんなんて呼ばなくていいよ。俺の名前は木戸樹って言うんだ」
「きどいつき?」
「さ、さすがにフルネームで呼ばれるのも変な感じだな」
「いっちゃん!」
「いっちゃん!?」
「いっちゃんいっちゃーん♪」
なんだか偉くその呼び方を気に入ったらしく、変な音程をつけて歌っていた。
「ったく、とりあえず行くぞ」
「はーい!」
俺の後ろをちょこちょこ歩く愛希。
ちゃんと着いてきているのか心配になり何度も振り返る。
「いっちゃんどうしたの」
「いや、どうもしてないよ」
「えー、でもあきの方なんかいつも見てるよ?」
「転んだりとか置いてってないか心配なんだよ」
「あきそんなドジっこじゃないよー」
「まだ小さいんだからあり得るんだよ」
「ぷー」
小さな頬を膨らませて言う愛希の姿は
記憶喪失な俺の心を癒してくれた。
一人でいるのが心細かった分、愛希と会えた事はラッキーだったかもしれない。
お兄ちゃんぶってるけど、実際は俺の方が弱いのかもな。