【完】俺が消えてしまう前に
「・・・樹君」
何件目かに向かう途中、七海が声をかけてきた。
「どうした?」
「なんか、こんなの愛希ちゃんに言えないよ・・・」
「俺も言いたくないよ」
「はぁ・・・」
俺と七海はお互い同じ気持ちだった。
なんとか切り替えなければいけないというのは分かっているんだけど、それがどうしてもできない。
とりあえず気持ちを落ち着かせるために近くにあるベンチに座る事にした。
座って間もなく、
向こう側から桃子と愛希が歩いてきた。
俺は愛希に会わす顔がなく、うつむいた。
隣に座っている七海もどうやら同じようだ。
「二人とも、愛希さんの事故のお話は聞いた?」
七海が静かにうなずき、俺もそれを追うようにうなずく。
「そう・・・。それでね?もう一つ大事な話を聞いたの」
「あきをたすけようとして一緒にトラックさんにひかれたひとがいるんだって!」
その話を聞いた時、
俺の頭が再び痛みだした。
「・・・樹君!?」
「痛い」
「桜塚さん!樹君が・・・!」
「樹さん?どうしたのよ!・・・こんな症状見た事ないわ」
「あきみたことあるよ!」
皆の声が遠くなる。
・・・怖い。
起きた時俺が俺じゃなくなっている気がして怖いんだ。
この頭痛は俺の"記憶"を思い出させるためのものだと分かっているから。