てのひらを、ぎゅっと。


私は、今日のこうちゃんを必死で目に焼き付けた。


きっとこれが、こうちゃんがサッカーをしている姿を見ていられる最後の時になると思ったから。


サッカーボールを追いかけている私の大好きな人。


汗だくになりながら、泥だらけになりながら。


それでも懸命に走る姿は、誰よりも輝いていた。


私は静かに目を閉じる。


全身の神経を、耳に捧ぐ。


………聞こえてくるのは、サッカーボールを蹴る音。


グラウンドから鳴る、ザッザッ……という土がはじける音。


サッカー少年の声。


たくさんの


─────青春の音。


私は確かにここにいる。


「ねぇ、梨帆………」


私ね。


「今、すっごい幸せ」


だって、こうやって好きな人の姿を目に映すことができる。


耳を澄ませば、たくさんの数え切れないほどの音が聞こえてくる。


生きてるんだもん。幸せじゃん。


ただ、それだけで。


梨帆は私を包み込むように、そっと微笑んでくれた。



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