てのひらを、ぎゅっと。


「心優に………この子に……っ、言ってやってください……」


お医者さんは目を丸くしてお母さんを見た。


まるで、”嘘でしょう?“とお母さんに言っているかのように。


「ほ、本当に、おっしゃっていいんですか?」

「この、子が………この子が歩む人生、ですっ………」


お母さんの言ったこの一言にお医者さんはひとつ息を吐いてから、分かりました、と静かに言った。


そして私のほうに向き直すと、私の目をじっと見つめてきた。


その迫力に、思わず背筋をピンと正す。


「よく聞いてください。心優ちゃんは病気です。脳腫瘍、と言う名がついている病気です。そしてこの間の検査で、その腫瘍が悪性であることが分かりました」


胸の奥から何か込み上げるものがきたけれど、私は唇を噛んでぐっとこらえた。


でも無駄だった、ダメだった。


次に言われた一言で、私の心のダムは決壊した。


ねぇ……お母さん。ごめんなさい。親不孝者で、ごめんなさい。


何ひとつ返せなくて、ごめんなさい。







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