魅惑のハニーリップ
「会社で嫌なことなんて本当になにもないんです。先輩も同僚もいい人ばかりで、仕事は大変なこともありますけど、充実してる部分もありますから」

「だったらどうして……」

「嫌なことがないし、職場に恵まれてるからこそ悩んでるんですけど……。実は私の友達で、仕事を手伝ってほしいって話があって、どうしようかと悩み中なんです」

「……そっか。どういう仕事？」

「雑貨やアクセサリーを扱うお店での勤務です」

　宇田さんは腕組みをしながら、少し天井を仰いだ。
　そのままじーっと考えたあと、私にまた視線を移す。

「遥ちゃんはその仕事やってみたいの？」

「……え」

「確かにさ、今の職場に不満がないんだったら、職を変わるのは勇気がいるよ。ただ、まだまだ遥ちゃんは若いから。いろんなことにチャレンジしてみるのもいいと思う。歳を重ねると、あらゆることが怖くなったりすると思うんだ。臆病になるし、億劫にもなって、勢いもなくなる。転職に限らず、それはいろんなことに対して。だから、やってみたいと思うんなら今のうちにやってみるべきだと俺は思うよ」

　あっという間に宇田さんは考えてくれて、的確なアドバイスをくれた。

　どうして……
　どうして宇田さんはそんなに素早く答えが出せるんだろう？
　これが人生経験の差、というやつだろうか。

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