魅惑のハニーリップ
「遥ちゃんの人生に俺がかかわれるのは、光栄だ。でも、俺のせいで遥ちゃんのあらゆる人生の可能性を潰したくはない」

「……」

「俺がそれを邪魔するのは……すごく嫌なんだ」

 正面に座る私の手の上に、宇田さんの逞しい手が重なる。
 ふと視線を合わせると、宇田さんは苦笑いしていた。

「だから、遥ちゃんがどっちの仕事をしたいかだけを考えたらいい。俺はどっちでも応援するから」

「……宇田さん」

「そりゃ……俺だって正直、ゆっくり会えなかったら寂しいけど。それでも俺が会いに来る。……遥ちゃんが好きだから」

 やさしくそう言われると、目頭が熱くなってきた。
 みるみるうちに、堰を切ったように涙が頬を伝う。

「泣かないでよ。……また帰れなくなる」

 宇田さんはその大きな手で私の頬の涙を拭ってくれた。

 まるで大空のように広い宇田さんの心に、私はちゃんと応えたいって思う。

 転職のことは、今後の自分のこと、仕事のことだけを考えよう。
 自分がどうしたいのか。
 シンプルにそれだけを考えてみよう。

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