魅惑のハニーリップ
「明日?……そうね」

 佐那子さんは口元に手をやって、艶っぽくウフフと笑う。まるで他人事みたいだ。

「でも明日のことはもう準備が整ってるのよ。だからもうすることがないし、それなら会社に来ようかなって」

「そ、そうなんですか……」

 私は結婚式とか披露宴とか、もちろん経験がないからわからないのだけど。
 たしかによく考えたら、もう打ち合わせとかは終わってるはずだ。
 いくらなんでも、こんな前日にバタバタしないだろう。

「佐那子さん、幸せそうですね」

「そりゃねー。結婚の前日なんて、みんな大抵幸せなもんでしょ?」

「あはは。ですよね」

「遥ちゃんは?」

「……え?」

「例の件、どうするか決めたの?」

 佐那子さんの言う“例の件”って、それは“転職”のことを指していて……

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