魅惑のハニーリップ
「佐那子さん違うんですよ。昨日は宇田さんが後輩の人を連れてきてくれたんです」

　彼女が完全に誤解しないうちに、私は説明を付け加えようと思ったのだが、佐那子さんも宇田さんも、少し訝しげに私の表情を汲み取っていた。

「遥ちゃん、どうしたの？ やっぱり具合悪いんじゃない？」

「え？　大丈夫ですよ。どうしてですか？」

「だって……なんだか沈んだ顔してるから」

　佐那子さんが心配そうに、私の頭にポンポンとその華奢な手を置いた。

　私はそんなにひどい顔をしていたのだろうか。
　自分では顔が見えないから、イマイチよくわからない。

「あ、そうだ。今日、お昼ご飯一緒に食べない？　もちろん奢るわよ！」

　佐那子さんがとびきり綺麗な笑みを浮かべて私にそう言ってくれた。

　そんな顔をされたら、男の人は誰でも惹かれてしまうのだろうな。
　なんて思いながら、私は「はい」と短く笑って答える。

「んじゃ俺も行く。佐那子の奢りだろ？」

　佐那子さんのすぐ後ろから、宇田さんのそんな冗談めいた声が聞こえる。
　この声は、佐那子さんがいるときにしか聞けない声だ。

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