魅惑のハニーリップ
 佐那子さんは私を行きつけのレストランへと連れて行ってくれた。
 ここのランチ美味しいのよ? なんて言いながら、にっこり笑って私にメニューを差し出す佐那子さんの左手が……

 不意にそれに気付いてしまった。

「あの……佐那子さん、指輪はしないんですか?」

 今朝は気付かなかったけれど、以前に佐那子さんに会ったときは、左手の薬指に婚約指輪が嵌められていた。
 キラキラと輝く大粒のダイヤの指輪だった。
 なのに、今はそれが見当たらない。

「ああ、仕事のときは邪魔になるからね。はずすことにしてるの。それに知らない間に傷がはいっちゃうのが嫌で」

「そうだったんですか……」

「うん。なに? 婚約破棄でもしたと思った?」

 佐那子さんは冗談めかして、にこにこ微笑みながらとんでもないことを口にした。

「いや、そんなわけないじゃないですか! ただ……指輪してないなーって思っただけです」

 あたふたとしながら私が取り繕うと、佐那子さんが細い指を口元に当ててクスクスと笑う。

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