魅惑のハニーリップ
「さっきもね、アポがあるからってすぐに行っちゃった」

「気を抜いてたら、営業成績なんてすぐに他の人に抜かれちゃうもんね」

「そうだよね……」

「なのに、並んだんだー。あのケーキ屋さんに。男の人がスーツ姿で、しかもわざわざ時間を作って」

「……」

 きっと、昨日の私のことを気にしてくれたからだ……

 佐那子さんに任せるって言ってたのに。
 私を元気付けようと思って、わざわざ買ってくれたのだろう。
 私が甘いもの好きって知っているから、喜ぶと思って。

「宇田さんってさぁ、遥に気があるんじゃない?」

 必要以上にニヤニヤとした顔つきで、優子が小首をかしげて聞いてくる。

「そ、そんなことないでしょ! 宇田さんが好きなのは……佐那子さんじゃない」

「でも、佐那子さん結婚しちゃうじゃん」

「だからって私のことは……」

「宇田さんだって、いつまでも結婚しちゃう人のこと思ってないでしょ」

「へ?」

「佐那子さんのことは、宇田さんの中で特別な存在かもしれないけど。恋人探しってなったら、普通は次にいくんじゃないの?」

 そうなのかな?
 心の中は……宇田さん本人しかわからないことだけれど。
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